パーソナルカラー診断自体は、意味のないものではない。しかし、診断結果を活かすためには、受ける側にもある程度の知識や色彩感覚がないと高確率で無駄になる。
たまたまの髪色や肌の色によって診断結果が揺らぎやすく、正確な(だと思いたい)結果が得られないケースも多い。
診断結果と「なりたい自分」との間に齟齬が生まれることも。診断に「なりたい自分」が否定された際、あなたはどうする?➡ファッションやコスメは、あなたの幸福度に先立つものではない。
こんにちは。昨今、パーソナルカラー診断が流行っていますよね。「あなたに“似合う”色」を教えるサービスですが、思うところがあったので、ファッションのプロ視点で書かせてください。
パーソナルカラー診断を受けられる方の大半が「自分に似合う色を探したい!」という顕在ニーズがあって、さらには「美しく思われたい!豊かに生きたい!」という潜在ニーズがあると思います。
その気持ちはとてもよく分かりますし、何なら応援したいくらいです。
でも、待ってください。そもそも本当に診断を受ければ、あなたは自己理解を深められるのでしょうか?
「パーソナルカラー診断が悪!」というつもりはありません。しかし、診断結果を活かすためには「前段階で結構、色に対する理解や準備が必要ですよ」と申し上げておきます。
また、パーソナルカラー診断は、診断する人の力量はもちろん、あなたのその時の状況によって診断結果が変わります。髪を染めたり肌が暗くなれば結果だって変わりますし、通年同じ色を維持している人は、そこまで多くありません。
そして、「パーソナルカラー診断」は、あなたのルーツや内面的“パーソナリティ”まで考慮された診断ではありません。「なりたい自分」や周りからのイメージと診断結果が異なった場合、多くの人にとってそこまで優先すべきことでもありません。
あるいは、モードの世界では、あなたのパーソナルカラーでない色が“似合う”ことも考えられます。パーソナルカラーは、あなたの“顔色を悪く見せない”ことに特化している美的感覚であり、モードがそうとは限らないからです。
これらのことまで切り込んだ上で、本日はお話させていただければと思います。それでは早速、参りましょう!
パーソナルカラー診断とは?診断の意味はあると思う?
あなたの「似合う(顔の印象を明るくする)」診断→意味はある
「パーソナルカラー」とは、あなたの「髪の色」「肌の色」「瞳の色」などを中心に、似合う(=顔立ちに調和した)色のこと。
区分方法は幾つかあるのですが、源流的な区分としては上記写真の通り、スプリング(イエベ春)/サマー(ブルベ夏)/オータム(イエベ秋)/ウィンター(ブルベ冬)に4区分されています。
「イエベ」「ブルベ」とは、それぞれ
- イエベ・・・黄み(温かみ)のある色によって、あなた自身の色素と調和がとれる人
- ブルベ・・・青み(冷たさ)のある色によって、あなた自身の色素と調和がとれる人
を指しています。あくまでイエローやブルーそのものではなく黄「味」や青「み」であり、レモンイエローのように“青みのあるイエロー”だってあるわけです。
いずれも捕色関係による“くすみ”を避け、中でも明度(色の明るさ)が高い~中程度のものを「春」「夏」に、明度の中程度~低いものを「秋」「冬」に区分しています。
圧倒的に女性的な嗜好をお持ちの方が興味を抱くサービスだと思いますが、パーソナルカラーを特に顔や首周りに配置することで、顔色がよく見えたり、小顔に見えたり、透明感を印象付けられたりが可能。
パーソナルカラーの定義は明瞭ですし、「顔色が良く見える原理」もおかしいとは思いません。パーソナルカラー診断自体は、決して意味がないものではありません。
ただ、流行りということもあり、セルフチェックや実際に診断してもらうこと自体のハードルの低さが、かえって仇となっている感は否めません。
具体的には下記を理由に、診断結果を教えてもらっても効果を出せないケースが多発しています。
受ける側が「明度」「彩度」(加えて「清濁」)を理解していないと応用できない
まず、「知りたい人が診断を受けるのに、診断を受ける多くの人が本質を理解できる入り口に立てていない」という問題点。
個人的な感覚ですが、この時点で世の9割の方々がこの状況でつまづいています(プロではないのだから当然です)。
しかし、ここでつまづいてしまうと、仮に診断が正確だったとしても「よく分からない」「試したけれど周りに不評だった」という結果が生まれてしまうのですね。
画像は、全て「赤」です。とはいえ、(隣接するもの同士ならまだしも)四隅の色はそれぞれ全く違う「赤」であり、“似合う”人も異なります。
つまり、仮に診断結果で「赤が似合う」「明るい色が似合う」と言われた(あるいは解釈した)としても、それだけでは本質的に何も意味がないと同義です。
最低でも、彩度と明度の「X軸」と「Y軸」が分からない方は、「あなたに似合うアイシャドウはSUQQUのシグニチャーカラーアイズ〇番!」とか「あなたが着るべきはユニクロのこの服の30 NATURAL!」とか、超具体的な指摘がないと、まともに効果が得られないという状況になります。
どうしても分からない人は、高額でも懇切丁寧なサービスでないと高確率で無駄になる
実際、「明度」「彩度」は分かる人には超絶簡単なのですが、分からない方には超難しいと思います。
よって「サービス受けて何となくわかったと思う!」程度では、現実問題、超高確率でお金をドブに捨てます。
「努力してみても、どうしても明度と彩度が分からない!」という人、あるいは「努力したくない!」という人は、数年に一度、懇切丁寧に超具体例を教えてくれるパーソナルカラー診断にお金を払うか、もしくは潔く諦めましょう。
診断結果が人にって変わる?➡結論:十分あり得る、その原因とは?
人に拠って「明度」「彩度」「清濁」のどの要素を重視すべきかも変わる
上述で紹介したパーソナルカラー診断は春夏秋冬の「4区分」ですが、中には「8区分」「12区分」や「16区分」も存在します。
つまり、あなたは単純に「イエベ」「ブルベ」であることに加え、さらに「明度を重視すべき」「彩度を重視すべき」「清濁を重視すべき」といわれることもあります。ここまでくると、色彩感覚に余程自信がないと意味が分かりません。お金を払ってサービスを受ける方なので、良く分からないのは当然ですよね。
確かに、区分を増やせば、より正確な診断結果になる可能性は高まります。一方、指摘も細かくなり、細かい分だけ診断を受けた人に繊細な色彩感覚を求められます。よって、診断される側が間違える・勘違いするリスクも高まります。
そのときの髪の色や肌の色で結果変わらない?→ぶっちゃけ変わる
先述のとおり、パーソナルカラー診断は「髪の色」「瞳の色」「肌の色」を中心に、その他の要素(白目、唇、輪郭など)も加えた上で総合的に判断するもの。言い換えると、「髪の毛のカラーチェンジ」や「日やけ」などで簡単に診断結果が変わります。
(私は35年髪の色を変えたことないですが)人に拠っては気分で髪の色、変えたくなるじゃないですか。大体の人が地毛が黒かこげ茶だと思いますが、髪の毛を脱色して、ついでに眉マスカラして・・・三大要素の中でも特に重要な「髪の毛」の色が変わるので、診断結果にも大きく影響を及ぼします。
また、価値観や経験の有無で診断結果に対する印象も異なります。例えば「ああ、アフリカ系の人たちって原色的なカラーが似合うなあ」という実感する経験の有無で、仮に「あなたは原色系が似合う!」といわれたときの反応だって異なりますよね。
人種や環境で評価軸や基準も変わらない?→現状は変わってしまうくらい、国ごとで評価軸が異なる
パーソナルカラー診断は1980年代にアメリカで誕生し、最初はヨーロッパ系を対象にしたサービスでした。やがて、全人種に対応すべく、日本で16区分まで増えた診断方法です。
パーソナルカラー診断はオンラインや実際の対面で行われるという点では万国共通ですが、例えば日本のサイトではない「Colorwise.me」では、大多数の日本人は「WINTER」のいずれかになります。
これは、国内の診断結果(「ブルベ夏」が多い)とは明らかに異なります。性質上、こんなことあってはならない筈ですが・・・。
世界基準で判定した際、私たちアジア系は相対的に髪が黒く目も黒い。それだけで多くの方が「ブルベ冬」と認定されるという、安易なサービスが蔓延っていることも事実です。
本来、パーソナルカラー診断は「個人の顔がパッと明るい印象になる」という意味での「似合う」を模索するもので、全く意味が異なることにも関わらず、です。「ブロンドヘアー」や「青い瞳」がその辺りに歩いている環境からすれば、“ぶっちゃけ髪の毛の色が暗くてこげ茶も黒も大差ないから、暗い色着とけば明るい印象になるよ”になるわけです。
これは、日本のパーソナルカラーアナリストが悪いわけではありません。しかし、実際には日本でも安易なインターネット上のサービスが多いことも否めません。それによって「診断したけどよく分からない・・・」というユーザーを増やしてしまう原因になっています。
パーソナルカラーの診断結果がイマイチ好きな色じゃなかった!どうする?
あるいは、パーソナルカラーの診断結果が、「あなたの好きな色」や「似合うと思っていた色」と異なるケースは多いと思います。
理由はあなた自身のバイアスにあるかもしれません(例えば好きな色や、誕生日の季節を選んで欲しかったり)。もしくは、診断する側に問題があるかもしれません。
いずれにせよ、私の意見としては「あなたが幸せになれると感じる方を選びなさい」です。なぜなら、あなたが幸せになること以上に、ファッションやビューティーに意味などないからです。
あなたの立場によって、パーソナルカラー診断に従うメリットの度合いにも差がある
パーソナルカラー診断を以って「調和」に向かうことも一つの正解ですが、個人的にはそこまで無理して従う必要はないと思います。
違和感からの個性的な美しさにチャレンジしたっていいわけですし、「差し色」が完全に調和したら“差せない”ですよね。
「美」とは感性であり、一言で語れる概念ではありません。“当てはめてポン”で地平の全てを網羅できるものではなく、試行と反芻、そして推敲によって拡大する性質であることも考えられます。
何より、これだけ「ダイバーシティ」や「個性」が囁かれながら、ビジネスの力で画一化された「美」を提供されるなんて、まあ売る側に都合の良く、何よりつまらない世界だと思いませんか?
アンチテーゼとしての違和感もまた「美」になり得るし、それを体現してきたのが「モード」です。
皆な同じ格好で、皆同じメイクで、誰かのコピー、そのまたコピーが歩いている。「服装やメイクなんて普通で良い」のであればそれも「是」ですが、少なくとも、纏うことであなたのアイデンティティを表現したいのであれば、むしろ優等生過ぎる方が「おかしい」のでは。
とはいえ、社会的立場を表現したりすることも、ファッションの要素のひとつ。ファッション自体はもちろん、アンチテーゼもファッションであれば、“アンチテーゼのアンチテーゼ”もまたファッションです。
比較的人に見られる立場の人、例えば、見た目を売りにした芸能人の方やアナウンサーといった立場の人は、(診断や解釈が正確ならば、ですが)パーソナルカラー診断を重視する効果は高いと思います。
一方、そこまで“人に見られない”一般的な方にとっては相対的にそこまで重視する必要はありません。あなたの立場によっても、パーソナルカラー診断に関わるべき度合いそのものも異なります。
「あなたのカラー」を作るのも面白い
例えば、カズレーザーさんやティモンディ高岸さんが、鮮やかな赤やオレンジを着るのは象徴的でカッコいいと思います。恐らく、彼らはパーソナルカラー診断で言われたから着ているわけではありませんよね。
確かに、パーソナルカラー診断で得意な色を作ることも「正解」のひとつです。しかし、その色やルックを着る雰囲気や、意味のある人、トレードマークになることは更にカッコいいと思います。
「あなたのカラー=パーソナルカラー」とは限りません。あなたの性格やキャラをイメージさせる色や、親しい人や家族などの特に大切な周りの人に思われている色を纏うことも、立派な「あなたのカラー」ではないでしょうか。
例えば、日本人なら「季節の和の色」を着るなどの軸も考えられる
パーソナルカラー診断は、その名の通り個人のみに焦点を当てたカラー診断で、その他の環境要因や背景といった諸要素は全て無視した上での診断です。
“似合う”とは“らしさ”という意味も含まれると思いますが、仮にあなたが日本人であるとすれば、「日本の色」を纏うこともひとつのらしさ、つまり“らしさ”を体現する行為ですよね。
もちろん「日本の色」といっても平安時代・戦国時代・江戸時代など時代や、社会的立場によっても変わりますが(今回は割愛します)、着物の色は、知恵の借りどころとしても有用。比較的季節の変化の激しい環境を利用して、四季折々の色を纏うことも“らしさ”のひとつです。
いずれにせよ、パーソナルカラー診断が美の基準の全てではなく、選び方の全てでもないことは、心得てください。
正直、ユーザー側も、本質的に難しいことを簡単に理解しようとする姿勢はNG
結論として、
パーソナルカラー診断自体は決して無意味ではないが、診断される側にも色に対する理解が求められる。
パーソナルカラー診断は、診断する側/される側の様々な状況次第で結果が変わりやすい。
(私の意見ですが)ほとんどの人にとっては、あなたのイメージや好きな色>パーソナルカラー診断。そして、パーソナルカラー診断自体も“美の絶対的条件”ではない。
ということです。
パーソナライズされて、しかも手軽に試せる、そして自分にメリットがある。だからこそ、これだけ関心の高い分野に急成長したのではないでしょうか。
しかし、実際には上手く活用するためには、かなりハードルの高いサービスであると言わざるを得ません。
そして、私個人の感想ですが、パーソナルカラー診断の資格を持っている人の色に対する理解力も、全体的にまだまだ足りていないと思います。
これは、副業時代の到来と同時期にブームが来たため、“乗っかっている人”も多いからと考えられます。
恐らく、あなたや私の“似合う”に対する「真理」など、一生探したって分からないでしょう。生きてる内に必死にあがきつつ、それを楽しむ行為こそ、ファッションやビューティ分野で“やっていく”ということではないでしょうか。
パーソナルカラー診断をした上で、あなたのパーソナリティが輝いて幸せを感じるか。
少なくとも、何の知識や背景、あるいは生半可なサービスを受けるだけでは完結しないことだけは確かです。
おしまい!