二枚裁ち/三枚裁ち
二枚裁ちとは、ジャケットの身頃のパーツが前身頃と後ろ身頃の二枚のみで構成されているものを指します。見分け方としては、ジャケットのポケットを通る縫い合わせが、裾まで続いているか否か。縫い合わされていなければ、身頃のサイド部分も前面と同じ一枚のパーツということになります。
二枚裁ちは、テーラードジャケットの源流的な仕様です。1920年前後くらいまで縫製技術が未熟で縫い目の耐久性が低かったため、なるべくミシンを掛けない作り方が心がけられていたそうです。縫い目がないという利点の一方、どうしても腰周りをスッキリと作れないという特徴もあります。抑揚が抑えられたテーラードコートは、今でも二枚裁ちが多いですね。
今回のスーツの中では、ジルサンダーだけが二枚裁ち。デザイナーのジルサンダー氏は二枚裁ちに拘りのあるデザイナーで、(三枚裁ちもありますが)度々見かけます。一方で、例えばラフシモンズがクリエイティブディレクターの時期は、三枚裁ちがほとんどでした。
現在のテーラードジャケットの99%は、三枚裁ちで作られています。三枚身頃は前身頃、後ろ身頃、そして細腹(サイバラ、“side body”に由来)の3パーツで構成される仕様。前と横のパーツが切り離されているので、腰周りをスリムに仕立てることが出来ます。布からパーツを切り取る際の効率を重視し、プロイセンで採用されたという説が有力だそう。
「どちらが上」というのは特にありませんが、源流的な方法を好んで二枚裁ちに拘る人もいます。二枚裁ちで美しいジャケットにするにはアイロンがけも必須ですので、贅沢な仕様であることは間違いありません。一流のテーラーも、シルエットに応じて使い分けている人が多いようです。
個人的には、前身頃と細腹の切り替えが目立ったり、腰周りが特にスリムでもないジャケットは二枚裁ちが良いと思います。「+J」に使用されている生地は厚地で、三枚裁ちだと縫い目が膨らんで目立ちます。ここはピックステッチ(手縫い風の粒々とした見た目のステッチ)で抑えるか、二枚裁ちにして欲しかった部分です。
ちなみに、2021春夏シーズンの「+J」のジャケットはメンズ・レディース共に二枚裁ちでした。腰周りの広がりを活かせるので、レディースでも活きる仕様ですね。
激安スーツ | 三枚裁ち |
ユニクロ「+J」 | 三枚裁ち |
ヒルトン | 三枚裁ち |
ブランドM | 三枚裁ち |
リングヂャケット マイスター | 三枚裁ち ピックステッチあり |
ジルサンダー | ニ枚裁ち ややカーブが不自然に |
前肩
前肩とは、主にジャケットを上から見下ろした際に、袖と身頃の繋ぐラインが「ハの字」を描いているものを指します。人間の肩は前に出るため、前に突き出せる余裕を持たせてあげると、動きやすいジャケットになってくれます。
肩線のいせ込みの続きとなりますが、いせ量が大きいと背中が膨らむだけでなく、袖と身頃を繋ぐアームホール部分が前に出てきます。さらにアイロンを首の後ろから肩先に掛けてくせとりを行うと、肩先にひとつまみの余裕が生まれます。
前肩仕様の度合いはスーツによって異なりますが、上から見たときのハの字型の開きと、ひとつまみの余裕で概ね判断できると思います。
今回のスーツの中で、前肩仕様なのが(やはり)リングヂャケットマイスター。ここは前肩仕様に命を捧げたメーカーですから、お家芸となっています。ちなみに、骨格の特徴としてアジア系に肩が前に出ている人が多いのは事実ですが、同じ人間ですのでヨーロッパ系のスーツにも前肩仕様はあります。
ジルサンダーは惜しい感じです。マシンメイド中心のジャケットですので限界は感じますが、全く意識されていないわけでもない形状。テーラーメイドライン(ジルサンダーは、テーラリングの技術が導入されたスーツやコートに“TAILOR MADE”というタグをつけている)の意地を感じました。
他のブランドは、さすがに前肩仕様の導入は難しいようです。ヒルトンはかつてリングヂャケットによる監修モデルも出しており、そちらは前肩仕様になっていました。
激安スーツ | 不採用 |
ユニクロ「+J」 | 微妙 |
ヒルトン | 微妙 |
ブランドM | 不採用 |
リングヂャケット マイスター | 一流のフルオーダーに匹敵 |
ジルサンダー | 微妙に角度が付いている |
鎌浅
鎌浅とは、ジャケットのアームホールの脇部分が通常よりも上に「突き上げている(=カマが浅い)」形状のこと。脇下から突き上げる感覚があると、腕を上げた際に(脇下の生地が引っ張られないため)動かしやすくなります。
写真の指を指している脇の後ろ部分が、特に突き上げを感じる部分です。
「+J」のアームホールと比較すると、鎌浅仕様のものは潰れた「そら豆」のような形状になっているのがお分かりいただけるでしょうか。丸い袖のアームホールと、「そら豆」のような形の身頃側同士を縫い合わせるのは、形状が違うため丁寧な縫製が求められます。
大量生産品は、なるべく縫いやすいようにパターンを設計することで生産効率を上げています。縫製工場は「この工程を○○秒で仕上げる」といったノルマがあるため、基本的に面倒な仕様は導入できません。これは廉価なブランドだろうと、ハイブランドだろうとある程度共通しています。
今回のスーツにはありませんが、最近はオーバーシルエット&ドロップドショルダーと共にアームホールも下がる(カマが深い)服が多くなりました。軽い服なら特に問題ありませんが、重量感あるアウターだと非常に腕を上げにくい。お持ちの方は試してほしいのですが、腕を上げると脇から下の布が重く感じませんか?
「今のトレンドアイテムはダメだ!」などと言いたいわけではありません。しかし、テーラードジャケットのような重量のある服がオーバーシルエットだと、重量が首や肩部分に集中します。結果として疲れるジャケットになって「スーツは着心地が悪い!」と思うようになります。
結論、スーツはジャストサイズで着た方が良いですよ。
激安スーツ | 不採用 |
ユニクロ「+J」 | 不採用 |
ヒルトン | 不採用 |
ブランドM | 不採用 |
リングヂャケット マイスター | 一流のフルオーダーに匹敵 |
ジルサンダー | 不採用 |
被せ襟
最後に被せ襟。これは、ジャケットの上襟(の表面の方)を、他のパーツを繋ぎ合わせてからハンドメイドで縫い付ける仕様です。よく梯子掛けと混同されることが多いのですが、首馴染みが更に良くなる(一流の)オーダーメイド仕様です。
今回のスーツの中で、被せ襟を行っているスーツはありません。ついに全滅しました。ちなみに、リングヂャケットマイスターは最高峰の「マイスター206」レーベルのみ、被せ襟仕様になっています(今回非登場)。
ちなみに梯子掛けとは、写真のゴージライン(上襟とラペルの縫い目)を手縫いでまつり、段差を目立たなくする仕様。こちらに関しては、通常のマイスターレーベルにも採用されています。ゴージラインの縫い目が凹んでおらず、目立たないようになっていますよね。
激安スーツ | 不採用 |
ユニクロ「+J」 | 不採用 |
ヒルトン | 不採用 |
ブランドM | 不採用 |
リングヂャケット マイスター | 不採用 |
ジルサンダー | 不採用 |
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良いパンツはこうやって見分ける!