スーツがどれも同じに見えるあなたへ。本当はスーツの違いが知りたいあなたへ。
プロのファッションデザイナーが、“服の違い“を解説しました。
こんにちは、しょるです。
本日は初心者でもわかりやすい、良いスーツの見分け方。
「スーツなんて、みんな同じじゃないんですか?」と思っているそこのあなた。
「むしろ、一番差が出るのがスーツ」です。
メンズ服の中で一番、製作工程数が多いのがスーツだからです。ジャケットとパンツがあるのでパーツ数や縫製箇所も多いのですが、加えてスーツはジャストフィット感が命。人体のラインに沿わせるためにはパターンに工夫を凝らし、さらにアイロンの熱で布を立体的に曲げるため、制作に時間もコストも掛かります。
確かに廉価なスーツは驚くほどに機械生産が導入されており、ボタン付けからポケットまで一瞬で出来上がります。耐久性が求められる場所はミシン縫いで正解ですが、人体のカーブに沿って平面的な布を立体的に形作る作業は(まだ)機械の手では難しい。
しかし、コストを落とすために生産効率重視になれば、必然的にマシンでの縫製箇所が増えてしまいます。普段使いのための「良いスーツ」は高級感と耐久性を両立した生地を使用し、手縫いとミシン縫いを上手く組み合わせた仕立ての一着こそ理想的ではないでしょうか。
【ブランド】いいスーツとは?プロが違い&見分け方を解説【コスパ】
この記事のポイント
・ファッションデザイナーが、良い造りのスーツを見分けるポイントを解説
・価格帯やブランド形態が異なる6着のスーツを24,000字のボリュームで徹底比較
・スーツに関しては、ブランド力よりも造りの良さを重視すべし
極論、スーツ(テーラードジャケット&パンツ)の形状は(基本的には)どのブランドも同じです。しかし、どれも「差がない」ということではなく、ちょっとした仕様の差に対し、何も隠せるものがないということです。
特に、首周りと肩周りの差は圧倒的に違うので要注目ポイント。
比較に際して、今回は6着を選出。価格帯も(実質)1万円のものから、40万円のものまでチョイスしました。日本メーカーのものが多いですが、ブランドタイプが異なるものをピックアップ。私(181cm/69kg)に対し、サイズは48、A7、Lサイズと、大体同じくらいのものに揃っています。
撮影時のハンガーは、すべてナカタハンガーのスーツ用ハンガーw430(43cm)に統一。スーツの美しさを最大限発揮する、日本が誇る最高のハンガーです。スーツを掛けたときの美しさは、プラスチックハンガーや廉価な木製ハンガーとは一線を画します。
「激安スーツ」ブランド名非公開(定価20,900円)
まずは、某スーツ量販店の頂き物。素材はウールとポリエステルが50%ずつ。定価は上記の通りですが、実際には2着目から1万円程度で購入できます。耐久性重視のウール×ポリエステルの混紡素材、誰もが着れるように調整された量産型スーツ。
- ブランド名:非公開
- 定価:20,900円(実質1万円)
ブランド属性:量販店
表記生産国:中国製
素材:(表地)ウール50%、ポリエステル50%(裏地)ポリエステル
色/柄:グレー×ライトグレー/ストライプ
「+J」ウールテーラードジャケット&パンツ(定価29,890円)
「+J」は、デザイナーのジルサンダー氏が監修するユニクロのライン。20AWシーズンに9年ぶりの復活を果たし、話題になったNIKKE(日本毛織)のフランネルサージを使用。色柄は濃紺無地、僅かな起毛感と鈍い光沢感があります。
起毛感に加えて目付も重く、完全に冬用のセットアップです。価格はジャケットが19,900円、パンツが9,990円の合計29,890円。スーツとしては決して高価格帯ではないものの、ユニクロとしてはかなり高価。2021春夏シーズンの方がスリムなパターンになって、生地もオールシーズン向け。3万円以内に収めたいのなら良い選択肢。
- ブランド名: ユニクロ「+J」
- 定価:29,890円(上下合計)
ブランド属性:SPA(製造小売業)
表記生産国:中国製
素材:(表地)NKKE ウール100%(裏地)ポリエステル
色/柄:濃紺/無地(起毛感あり)
「ヒルトン」 シャドーストライプスーツ(定価64,900円)
ヒルトンは、「洋服の青山」が展開している最高級ライン。定価は64,900円と決して廉価ではありませんが、この価格で袖付け・襟(えり)付けをハンドメイドで行っており、高いコストパフォーマンスが魅力のスーツブランド。
ヒルトンは購入時から袖のボタンホールが開いている本切羽仕様のため、長さの調節が困難です。とはいえ、サイズ展開自体は豊富ですので、あなたに合うサイズは見つかりやすいのではないでしょうか。色柄はダークブルーのシャドーストライプで、ネイビーよりも緑っぽい青です。
- ブランド名: ヒルトン(HILTON)
- 定価:64,900円
ブランド属性:量販店
表記生産国:中国製
素材:(表地)ウール100%(裏地)ポリエステル&キュプラ
色/柄:ダークブルー/シャドーストライプ
「ブランドM(非公開)」ストライプスーツ(定価75,900円)
長らくルミネや丸井で展開されている、某デザイナーズブランドのスーツ。ブランド名は非公開にさせていただきますが、「ブランドM」とします。本来は「海外の」ブランド物ですが輸入品ではなく、いわゆるライセンスブランドという、ロイヤリティ(名前貸し)契約の下で日本企業が生産しているものです。
このブランドの場合、国内市場向けに某大手アパレルメーカーが担当しています。担当しているメーカーが展開するブランドは、ショッピングモールで展開しているファミリー向けブランドから、由緒正しきデザイナーズブランドまで様々。スーツの色柄は、ダークグレー×グレーのストライプ。
- ブランド名: ブランドM(非公開)
- 定価:75,900円
ブランド属性:デザイナーズブランド(ライセンス生産)
表記生産国:中国製
素材:(表地)ウール52%、ポリエステル48%(裏地)ポリエステル
色/柄:グレー/ストライプ
「リングヂャケットマイスター」184AH/172モデル(定価198,000円)
リングヂャケットマイスターは、SHOLLWORKS激推しのブランド。写真のモデルは世界最古の生地卸(マーチャント)である、ドーメル社の「スポーテックス ヴィンテージ」という生地を使用した一着。184AHは、通常のリングヂャケットの代表的な184モデルをマイスター仕様(アームホールの形状やディテールが異なる)にアップデートしたモデル。
リングヂャケットはファクトリーブランドという属性で、元々は有名ブランドのOEM生産を請け負っていた工場(ファクトリー)から出発したブランド。かつては日本初のメンズブランドであるヴァンヂャケットを担当していたり、現在もセレクトショップの最高級ラインのスーツを製作しています。
色柄は、遠目からはチャコールグレーに見えるピンヘッド。英国的なクラシカルさを感じさせ、インディゴ染めのデニムのように2色の糸で構成されています。生地の表面を間近で見ると、まるで「ピンの頭(ヘッド)」のように立ち並んでいることからこう呼ばれます。
- ブランド名:リングヂャケットマイスター(RING JACKET MEISTER)
- 定価:198,000円
ブランド属性:ファクトリーブランド
表記生産国:日本製
素材:(表地)ウール100%「ドーメル スポーテックス ヴィンテージ」(裏地)キュプラ
色/柄:チャコールグレー/ピンヘッド
「ジルサンダー(JIL SANDER)」(定価396,000円くらい)
最後にジルサンダーのスーツ。大分前の2013AWシーズンのもので、ジルサンダー本人が2011年に一旦終了した「+J」を離れ、(ラフシモンズが退任した)ジルサンダーブランドのクリエイティブディレクターに復帰した期間のものです。結局、ジルサンダー氏は一年後にブランドを離れましたが、いくつかのアイテムが手元に残っています。
生地はウール73%、モヘア27%の混紡素材。生地のブランドは非公開ですが、おそらくカノニコの「モヘアクアトロ」を使用していると思われます。色柄は黒無地。価格が「くらい」というのは、発売当時と消費税率が異なるため。本体価格360,000円(税抜)で、消費税率10%の今なら税込396,000円になります。
- ブランド名: ジルサンダー(JIL SANDER)
- 定価:396,000円(現在の消費税率に換算)
ブランド属性: デザイナーズブランド
表記生産国:イタリア製
素材:(表地)ウール73%、モヘア27%(恐らく「カノニコ モヘアクワトロ」)(裏地)キュプラ
色/柄: 黒/無地
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良いジャケットはこうやって見分ける!①