あなたも“ハイブランド”では実現不可能な「ハンドメイドシャツ」の世界に足を踏み入れてみませんか?
独特&高品質なプロダクトの柔らかい雰囲気に、病みつきになるかもしれません。
RING JACKET 楽天市場より引用
こんにちは、しょるです。
本日はお気に入りのブランド、リングヂャケットナポリ(RING JACKET Napoli)のシャツについてレビューします。
↓スーツに関しては、下記記事からお願いします!
最初に価格ですが、今回ご紹介するシャツは39,600円(カルロ・リーバという最高峰の生地を使用したモデルは66,000円)。しかし、ファッションアディクトにとっては安いと思います。
なぜなら、今回ご紹介するリングヂャケットナポリのシャツは、「(手間暇かけた)良い製品」を生み出すことにコストを集中させているから。
果たして、量販店やハイファッションのデザイナーズブランドに作れないシャツには、どんな要素が組み込まれているのか。ファッションデザイナーの私と、一緒に見て参りましょう。
良いシャツとは「生地&副資材」「縫製の細かさ&手間」「動きやすさ」
リングヂャケットナポリは、シャツやパンツ、ネクタイといったアイテムを、それぞれナポリの超一流メーカーに製作を依頼して少数展開しているライン。
シャツに関しては、チリエッロ(Ciriello)というナポリのシャツメーカーに製作を依頼しています。実際にはファクトリーは非公表なのですが、縫製の特徴からチリエッロ製であることが分かります。
その他にもコートやパンツ、ネクタイといったラインナップが揃っています。普段スーツは着ないという方にとっても、間違いなくオススメできるライン。
ルイジボレッリやフライ、バルバといったシャツメーカーは日本でも見る機会が多いのですが、チリエッロを販売しているショップは滅多に見かけません。
しかし、繊細なミシンとハンド工程をふんだんに導入している超一流のカミチェリア(シャツメーカー)であり、かつてはキトンのシャツもOEM生産していたファクトリーです。
ハンド工程ありのシャツも、マシンメイドオンリーと着心地は変わらないけど・・・
ハンドメイドスーツとマシンメイドスーツには、絶望的な着心地の差がある。しかし、ハンドメイドシャツとマシンメイドシャツの間には、絶望的なほど着心地に差がない。服はそこが面白い。
— しょる (@SHOLLWORKS) July 2, 2021
しかし、シャツに関しては、(同じパターンで製作したとして)手縫い箇所のあるものが、ミシン縫いのみで製作したものと比べて(基本的に)着心地が良くなる訳ではありません。
スーツなら絶望的といえる差がありますが、シャツに関しては、正直ほとんど変わりません。
これは、シャツが衣類として非常に軽いことや、生地も綿などセルロース系繊維が中心ゆえに、アイロンワークによる熱可塑性を利用したフィット感を追求できないから。手縫い箇所を増やしても、もの凄く着心地が良くなる訳ではありません。
「手縫い」であることが希少価値であり、手間を掛けてモノ作りを行っている証
ならば、なぜ、ハンドメイドのシャツが存在するのか??まず、「手縫い感」そのものがブランディングになっている点が挙げられます。
デジタルの登場によって、それまで情報の伝達を一手に引き受けていた紙媒体に新たな付加価値が生まれました。
同様に、マシンメイドが当然となった時代においては、「ハンドメイドで時間を掛けて(良いものを)作っている」という感覚こそが、手縫い箇所のあるシャツの神髄です。
実際は、イタリア・ナポリには、未だに針子さんのような内職的手工業が産業として存在します。
機械化の遅れを逆手に取ったブランディングであり、豊かなテキスタイル産業と融合したことで誕生した「凄い製品」です。東欧靴と同様に、いわばインフラの遅れを逆手に取った格好です。
ハンド感のあるシャツは、ハンド感のあるスーツと合う
また、ハンドメイドのスーツと合うことも価値の一つ。手縫い感のある「ゆらっと」した雰囲気のスーツには、手縫い感を感じさせる「ゆらっと」した雰囲気のシャツが良く合います。
スーツやネクタイと合わせ、世界観の演出できるシャツを選ぶと、雰囲気が統一されてチグハグ感がありません。
結果、リングヂャケットナポリは、リングヂャケットマイスターはじめ、ハンドメイドとマシンメイドを組み合わせたスーツとの相性が抜群になっています。
【リングヂャケットナポリ】シャツの評判をプロがレビュー【チリエッロ製】
レギュラーカラーのベーシックなシャツ
RING JACKET 楽天市場より引用
今回ご紹介するのはMILETAという、最もベーシックなモデル。
レギュラーカラー(大きさ、開き角度が標準的な襟)のシャツで、肩幅・身幅などの数値も中庸的な一枚。経糸・緯糸共に高品質と耐久性を兼ね備えた120番手双糸を使用した、コットン100%のブロード生地で製作されています。
RING JACKET 楽天市場より引用
全体的に非常に美しいモデルです。タイト過ぎず、かといってルーズ過ぎず。着丈のバランスや袖丈、ステッチの位置、ギャザーの配分など、いずれもバランスが良いと思います。
立体的に作られていることもあり、置いた際には「ゆらっと」「ふらふらっと」した雰囲気。日本製の正確なミシンのステッチワークとは、また違った魅力のある一枚。
リングヂャケットナポリのシャツは、レギュラーカラーの他、ワイドカラーやショートポイント、ロングポイントカラーといった様々な襟の大きさや開きの角度を展開しています。
色や柄に関しても、無地のホワイトやライトブルーの他、ストライプやチェックなども販売しています。ラインナップに関してはぜひ、公式や楽天市場のオンラインストアで確認してみてください。
ミシンステッチの細かさが凄まじい
まず際立つのが、縫製の手間と細かさ。通常のビジネスシャツと比較すると、縫製ピッチが圧倒的に細かいです。
安いシャツなら軽く3倍、デザイナーズ系のハイブランドと比べても倍以上は細かい。同じ箇所を縫うのに数倍の時間が掛かりますし、単純に真っ直ぐ縫うことも難しい。
工場勤務の方ならお分かりかと存じますが、同じオペレーションで倍以上の時間が掛かったら、とんでもなくコストが跳ね上がります。
裾の折り返し部分。通常のマシンメイドのシャツは大体、5㎜幅で三つ折りにしますが、リングヂャケットナポリのシャツは、半分の2.5mm程度。
裁縫好きの方や、服飾学生の方にはぜひ試していただきたいのですが、縫製ピッチの細かさと併せて、物凄く縫製の難易度が上がります。
袖先のステッチワーク。服の先端部分である袖先も目立つ部分ですが、もはやミシン目がよく見えません。
また、カフスが袖先に向かってすぼむ、円錐形に作られています。袖丈も長めで、腕を動かしてもシャツが手首で止まる仕様になっています。
9ヵ所をハンド工程によって縫製
ここからは、リングヂャケットナポリのシャツに採用されている、ハンド工程を一部ご紹介。
チリエッロ製のシャツは、耐久性の必要な箇所はミシンで細かく縫い、耐久性の必要ない部分を手縫い工程で仕上げています。
その結果、高級感と耐久性、動きやすさがバランス良く仕上げられています。
アームホール部分。身頃と袖の縫い合わせをミシンで行い、縫い代を手作業で優しく縫い付けています。
身頃との縫い合わせも、ここはあまり細かいミシンで縫い合わせません。ギチギチに縫ってしまうと突っ張って腕を動かしにくくなるため、あくまで優しく縫い付けることを重視しています。
首に巻きつく台襟部分は、身頃と外側の台襟はミシン縫い。内側の台襟部分は手作業でまつり縫い。
ボタンは、真珠を育てる貝から削り出された白蝶貝。非常に綺麗な個体が使用されています。
カミチェリアの中には、高級感を重視して分厚い白蝶貝ボタンを使用する所もあります。ボタンが厚いと高級感はあるものの、ボタンそのものが掛けにくくなるため、リングヂャケットナポリでは程々の厚さのものを採用。
加えて、通常のシャツと異なり、ボタン穴に対してボタン付け糸が放射状に通っているのが分かります。日本では形状から「百合付け」と言いますし、イタリアでは「鳥足(ザンパテグリアート)」と呼ばれている仕様。
根巻き仕様。上述の百合付けと合わせて、ボタンが浮いて掛けやすくなります。
ボタンの掛け外しのし易さに関しては、特に重要なディティールになりますが、大量生産品だと導入できません。ハイブランドでも非常に珍しくなった仕様。
手作業によるハンドホール。機械ならほんの1、2秒でボタンホールを作れますが、手縫いの「ふらっと感」を感じさせますね。
ガゼットという、前身頃と後身頃を繋ぐ裾部分の補強布。かつては身頃が裂けるのを防ぐ意味がありましたが、現在は縫製や布が丈夫になったこともあり、あまり機能的なディテールではありません。
袖の剣ポロ部分。ここは生地が裂けないように、補強としてハンドメイドの糸ループが施されています(袖丈を弄る際には付け直しが必要)。
その他、ディテールを解説
前身頃と後ろ身頃を合わせる際、99.9%のシャツは袖まで一気に縫い上げます。
今はハイブランドのシャツも、ほとんどが身頃から袖先まで繋がっている縫製方法。一方、リングヂャケットナポリのシャツは、身頃と袖をそれぞれ縫い合わせた後、袖を後付けで装着します。
こちらも、工賃が跳ね上がる仕様です。前振りと同じ効果も狙えますが、劇的に腕が曲げやすくなるという程の効果はありません。
しかし、「縫い目が繋がっていない」ということは、一気に済ませられる工程を踏んでいない「手間暇掛けられた」シャツということ。生産効率は低いのですが、製品としての格(と、僅かながらの効果)を感じさせます。
袖の肩部分は、リングヂャケットマイスターのスーツ同様、雨降らし袖(マニカカミーチャ)を採用。
ちなみに、イタリア語で“マニカ”が「袖」、“カミーチャ”が「シャツ」という意味。ナポリのサルトやカミチェリアが、よく採用している仕様です。
その他、背中のヨークとの繋ぎ合わせ部分や袖も、タックではなくギャザー仕様。全体的に柔らかさを演出しています。
襟の柔らかな雰囲気。多くのシャツは上襟や台襟、カフス部分に接着芯という、接着剤付の布を内側から接着して固さを出します。
一方、リングヂャケットナポリでは、接着剤を使用しないフラシ芯を採用。その結果、柔らかい雰囲気を残しつつ、ドレスシャツのピシッと感も兼ね備えています。
カッチリした鎧のようなスーツには、フライのようなメーカーの、マシンメイド&接着芯のカッチリとしたシャツを。身体に沿う、皮膚のように静かに佇むスーツには「ゆらっと」したシャツを合わせると素敵ですよ。
終わりに:ブランドネームを超えた、アイテムの「らしさ」を捉えること
今回は、リングヂャケットナポリのシャツをご紹介させていただきました。
ナポリのカミチェリアは全体的に、柔らかく色気のあるシャツ作りを得意としています。しかし、実際には様々なメーカーが、様々な特徴で勝負しています。
アンナマトッツォのような「手縫いを極めた」メーカーがある一方、バルバのような、ほぼマシンメイドのシャツを展開するところまであります。
ただ、総じて非常にレベルの高いモノ作りと、日本のファクトリーでは作れないエキゾチックな世界観が魅力。中でも、リングヂャケットナポリのシャツは、価格と製品クオリティのバランスが際立つ逸品です。
ファッションに対し、世界的な有名ブランドをチョイスすることも、量販店のアイテムをチョイスすることも、「何が正解で何が間違い」というものはありません。
しかし、何か強いメッセージ性、つまり「らしさ」を持ったアイテムは、あなたのここぞという時のスタイルに、強い味方となってくれる可能性を存分に秘めているのではないでしょうか。
世の中の99%の人は、服の品質が分かりません。
生地を見て触っても良いものか判断がつかないでしょうし、結局、ブランド名や価格で「何となく良いものなんだろうなあ・・・」「そうでもないよなあ・・・」と思っていますよね。
ブランドビジネスは極めて、確証バイアスが働きやすい世界です。しかし、ファッションは、ぱっと見だけの個性で勝負するだけの世界ではありません。このアイテムが人気だから欲しい!だけの世界でもないのです。
だからこそ、静かに尖った「らしさ」を伝えてくれて、あなたの息遣いや皮膚に沿った優秀なプロダクトのチョイスもまた、ファッションの醍醐味ではないでしょうか。
個人的には、リングヂャケットのプロダクトは、非常にオススメです。あなたの描くスタイルに合致するのであれば、ぜひ一度、試してみてくださいね。
おしまい!