「ユニクロのスーツで十分?安っぽい?」という疑問にプロが答える
良いと思う点
良くないと思う点
こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。
本日は「スーツはユニクロで十分か、それとも安っぽいのか?」という疑問について、プロの視点からお答えします。

最初に結論を言うと、ユニクロのスーツは良いスーツとは言えません。
スーツは衣服の中でも、特に多くの複雑な工程を経て作られるもの。中途半端な作り方をすると購入時だけでなく、着用しているうちにも差が生じやすい服だからというのが理由です。
今回は、実際にユニクロのスーツを購入し一年ほど着用したプロのファッションデザイナーの立場で、その理由を生地・縫製・デザインの観点から具体的に解説します。
また、本当に良いスーツと言えるレベルのものとの相違点や、代替手段としておすすめできる現実的な価格帯のスーツについても記事の後半で言及します。
ユニクロのスーツは「十分ではない」|1年着用した結論
Image Photo by Uniqlo
それでは早速、服に精通したプロのデザイナーである私が実際にユニクロのスーツを購入し、約1年間着用して感じた問題点をお伝えします。
結論、ユニクロのスーツは、
と思います。
これは決して“なんとなくユニクロだから安っぽい”と言っているわけではありません。
しかし現実として、この価格帯(2~3万円台)のスーツにはどうしても「安かろう悪かろう」な部分が見え隠れします。
その結果、着用感にも違和感が生まれやすく、長年の着用で型崩れなどが起こります。
さらに言えば、世の中にはユニクロの倍程度の価格で購入でき、倍以上の期間着用しても「みすぼらしくなりにくい」スーツが存在します。
そのことからも、「ユニクロのスーツは十分ではない」という結論に至りました。
いくらユニクロといえど、最も多くの工程数が必要な「スーツ」というジャンルでは、価格差によるクオリティの違いを隠しきれません。
ユニクロのスーツで「十分ではない」根拠|仕立てのここが安っぽい
実際に、ユニクロのスーツのどこがダメか、具体的な個所を紹介します。
「ユニクロのストレッチウールスーツは10万円のスーツにも匹敵する品質」といった意見を耳にすることもあります。しかしそれには厳しい現実があり、語弊もあります。
厳しい、語弊がある理由としては
- 最高峰のファクトリーが作る10万円スーツなら、ユニクロでは到底歯が立たない
- 一口に「10万円のスーツ」と言っても、その価格に至る理由によって仕上がりや品質が異なる
- 作りがダメな10万円のスーツなら縫製だけなら匹敵するかもしれないが、生地やボタンといった付属資材の品質差で厳しい場合がほとんど
といったものが挙げられます。
二番目の内容は分かりにくい部分もありますが、服という者は仮に同じ「10万円」でも、広告宣伝費にお金を掛けているブランドと、OEMで上乗せ分が少ないファクトリーでは掛けている原価そのものが全く異なります。
デザイナーズブランドの10万円スーツ相手なら、ユニクロのスーツも構造的には良い勝負ができるものもあります。
一方、相手が世界最高峰レベルの既成スーツであるリングヂャケットの10万円スーツなら、ユニクロでは到底歯が立ちません。
もちろん、ユニクロのスーツは価格を考えればすさまじくコスパが高いことは間違いないのですが、だからと言ってどんなブランドともタメを張れるはムリです。
具体的にどの部分が甘いのか、紹介していきます。
上襟のフィット感(のぼり)が甘い
“ちゃんとしたスーツ”ではあり得ない部分
まず、ユニクロスーツの安っぽい/十分ではない点として真っ先に挙がるのが、首周り(上襟)のフィット感が悪いことです。
具体的には、(上の写真の赤◯部分のように)着用時に上襟が首から浮いてしまうスーツは良いスーツとは言えません。
もちろん、激しく身体を動かせばどんなジャケットでも多少は襟が浮きます。しかし、写真程度に普通に立っているだけで襟が浮いてしまうスーツは間違いなく「安っぽい」部類です。
そして厄介なことに、この首周りの浮き(業界用語で「上襟ののぼりが甘い」状態)は、廉価なスーツの作りではどうにもならない部分でもあります。
実際、40万円くらいする高級ブランドのスーツでも、こういった仕様のテーラードジャケットは珍しくありません。
だからこそ、「ユニクロのスーツだからダメ!」と一概に決めつけられる部分でもないのです。高くてもこの部分がダメなスーツは「安っぽい」のです。
Image Photo by Uniqlo
上襟が浮いてしまう(=「のぼり」が甘い)原因は、襟のパーツを作る工程に手作業のアイロンワークを取り入れられない、コスト重視の簡略工程を採用していることにあります。
スーツ製造において、本来は職人が襟のパーツにアイロンの蒸気と熱を駆使してクセ付けを行い、首の丸みに沿わせるよう変形させます。
この手間をかけることで、首周りに吸い付くような着心地の良いスーツに仕上げることが可能です。
しかし、大量生産を優先するスーツ作りでは、このアイロンワークの手間を省くために「二枚襟」という方式を採用します。
二枚襟かどうかは、ジャケットを後ろから見たとき首の後ろ部分(上襟部分)に横方向の継ぎ目があるかどうかで判別できます。
上記写真のように、首後ろに当たる上襟パーツを真ん中で縫い合わせている場合、それは二枚のパーツを継いだ「二枚襟」の仕様で、残念ながら最近ではかなり高額なブランドでも当たり前のように導入されています。
Image Photo by RING JACKET
一方、一枚襟は襟のパーツを一枚布で作り、手間暇かけてアイロンで首の形状に沿うよう立体的にクセ付けしてから縫い付ける非常に手間のかかる方法です。
上の写真(リングヂャケットの例)を見ると、人間の首に合うよう襟に丸みを帯びたラインが描かれているのが分かりますよね。
これが一枚襟ならではの立体的な仕上がりです。
スリムフィットジャケット
「286」モデル
念のため言っておくと、決して私は公式写真のあら探しをしてコタツ記事を書いているのではありません。
こうして実物を並べて比較すると、ユニクロのジャケットの襟がいかにペタンと平面的でカクカクしているか、お分かりいただけると思います。
人間の丸い首に沿うシルエットになるのはどちらか、服飾の専門知識が無くても理解できるはずです。
首がカクカクしているジャケットは、重さが首や肩の一部「点」でしか支えられなくなり、「スーツ=疲れる」「肩が凝る」といった感想を持ちやすくなります。
確かに「スーツは疲れる服」というのは半分正解ではあるのですが、もう半分はこうしたコスト面で妥協された既製品スーツを着ていることで生まれる先入観なのです。
この「一枚襟」「二枚襟」は、ブランド側も、この襟の仕様はハンガーに掛けて売る際やブランド名を語る上で気にして買う人が少ないため、コスト削減の余地になる部分です。
多くの人は「○○という高級ブランドだから良いスーツのはず!」と思い込んで買ってしまいますよね。
しかし二枚襟はあくまで品質を優先しない「プランB」的な作りであり、手間暇かけて人体に合わせた一枚襟には結局敵いません。
「袖付け」の甘さが目立つ
真正面から見た際に腕の内側が外に広がる
袖の外側が正面から見える
ユニクロに限らず、良いスーツかどうかは「袖の付き方」にも表れます。
袖付けの正解は、2枚目の写真のように袖の手の甲側(外側)が正面を向くようについているものです。
人間の腕は歩くときや何かに手を伸ばすとき、身体の中心から前方へ向かって弧を描くように出ます。
だからこそ、服作りにおける袖付けは「身体の正面に向かって巻き込むようについている袖」が正解なのです。
しかし、そのような袖を実現するには、袖を縫い付ける肩の位置(袖ぐり)が身体の前の方に来るようパターン設計や縫製の工夫、生地にアイロンでクセ付けする手作業が必要だったりと、手間のかかる工程が必要です。
「面倒くさい」「コストがかかる」方法を取らない限り、快適に腕を動かせるジャケットにはならないということです。
上から見た際、肩が前に出ずに横に広がる
肩先がググっと前に出るため動かしやすい
残念ながらユニクロのジャケットはコスト上、そうした凝った作り方はできず「ただ裁断してミシンで縫うだけ」という製法に頼らざるを得ません。
その結果、上から見ると肩先が前に出ず横に張った形状になっています(写真一枚目)。一方、リングヂャケットのスーツでは肩先がグッと前に出ているため、肩を動かしやすく腕を前後に振りやすい構造になっています(写真二枚目)。
スーツの着心地に直結するこうした部分も、ユニクロをはじめ低価格帯スーツではどうしても簡易な構造になってしまうのです。
もちろん「数千円~25,000円程度のスーツに何言うとんねん!」というツッコミを受けるのは承知しています。
しかしスーツに少し詳しい方なら、この袖付けに関する差は安価な既製品では覆しようがない事実であるとご存じでしょう。
とはいえ、プ◯ダやグ◯ッチ、ジルサ◯ダーといった有名ハイブランドのスーツも(25年前くらいの物ならともかく)現行品は全然ダメなのが実情です。
裏を返せば、
- ユニクロのスーツの袖付けは(手抜きに手抜きを重ねている)今の有名ハイブランド品と同程度である
- しかし、実力派のファクトリーがきちんと作ったスーツには遠く及ばない
とも言い換えられます。
今の時代、いわゆる“ハイブラ”であっても品質本位のものづくりを捨ててしまっているため、ユニクロと大差ないというのは事実です。
ただし、だからと言って「ユニクロがスーツ品質の絶対王者」という意味にはなりません。
やはり、生地やボタンなど細部イマイチ
Image Photo by Uniqlo
ユニクロは「〇〇を使用!」と素材の謳い文句で魅せるマーケティングが非常に上手い企業です。
むしろ他のアパレル企業はもっとユニクロを見習うべきだとすら思いますが、その宣伝文句の裏で語られていない部分に「穴」があることも事実です。
例えば、一口に「エクストラファインメリノウールを使用」と言っても、実際にはそのメリノウールの繊維の品質にはピンからキリまであります。
ウール生地を構成する繊維の太さ(極細~太め)のバラつき、羊毛そのものの繊維長の違い、繊維の引張強度(元気な個体の羊毛ほど細くても強度が高い)なども品質評価の対象(=高級さの指標)に含まれるのです。
要は、「エクストラファインメリノウール=高品質」という単純な図式の中にも、実際には玉石混交の差が存在するということ。
「シャインマスカットの中にも美味しい粒とそうでもない粒がある」のと同じですね。
現に、ユニクロのスーツに使用されている「Super110’sウール」生地は、同じSuper110’sでもイタリア製のカノニコ社「Perennial(ペレニアル)」などと比べると質感で遠く及びません。
もちろん価格を考えれば非常に高い「質」ではあります。 競合他社の同価格帯スーツならせいぜいウール50%・ポリエステル50%生地が精一杯でしょう。
そもそもこの価格帯で、ほぼウール100%で作られていること自体が凄いことは認めます。
プラスチックボタン
削り出したボタン
ただ、一目でプラスチックと分かる安っぽいボタンのクオリティは、個人的には最も不満な点でした。
袖先についているボタンがチープだと非常に目立つため、そこはどうしても隠しようがありません。
実物を見るとペタッとしたプラスチックボタンで、質感もなく安価な印象は否めません。
結局、ユニクロのスーツはこんな人向け
ここまで、ユニクロのスーツが「安っぽい/十分ではない」理由を解説してきました。
しかし決して「ユニクロのスーツが良い」という価値観すべてを否定したいわけではありません。
少なくとも予算が~3万円しかないのであれば、ユニクロのスーツは今でもベストバイの一つであることに変わりないのです。
「ユニクロのスーツがあれば他のブランドなんて全て意味がない!」とまでは言いませんが、次のようなケースに当てはまる人にはユニクロのスーツをおすすめします。
3万円以下のスーツならベストチョイスのひとつ
いずれにせよ、“コスパ”を理由にユニクロのストレッチウールシリーズを選ぶべきなのは、検討予算が3万円以内のときです。
※サイズが自分に合うのであれば、という前提付きですが。
例えば「AOKI」や「洋服の青山」といった量販店で販売している2~3万円台のスーツよりは、ユニクロのスーツの方が個人的にはおすすめ度が高いと言えます。
あるいは、5万円くらいのデザイナーズブランドのスーツを買おうか迷っているくらいなら、私なら「ユニクロのストレッチウールのジャケット&パンツにしようかな」と思います。
一般的な“普通のスーツ”というカテゴリ内では、ユニクロのスーツはほとんどの商品と同様に非常にコストパフォーマンスが高いものだと捉えて問題ありません。
リクルート~新卒用のスーツとして使いたい
就活用の「リクルートスーツ」としても、ユニクロのスーツはおすすめです。
というより、私は一般的なリクルートスーツなるものは買うべきではないと考えています。
なぜならリクルートスーツは就活生専用に作られていて、耐久性が低く就活が終わる頃にはダメになりやすい=結局その後使えず無駄になる場合が多いからです。
就活が終わればゴミ同然になるようなものを買うくらいなら、最初から無地でベーシックなビジネススーツを買ってしまいましょう。
リクルートスーツをわざわざ購入するくらいであれば、ユニクロのスーツで就活に臨んだ方が遥かにマシであることは間違いありません。
実際、リクルートスーツ文化は日本にしか存在しない奇妙なものですが、見た目は普通のビジネススーツと大差ないのに「就活生はこれを着なさい」と売られているのがリクルートスーツです。
ハッキリ言って、「周りと違うと不安」という集団心理や同調圧力を利用したあこぎな商売だと私は思っています。
目立ちたくない、高級と思われたくない
中には「できるだけ目立ちたくない」「高そうなスーツだと思われたくない」という理由から、あえて高級感のないスーツを選びたい人もいるでしょう。
そのような方にとって、ユニクロのスーツは究極的に嫌味のない無難な選択肢になります。
そんなどうでもいいことまで気にしなければならない会社、私なら迷わず秒で辞めますけれども(笑)
学生時代までどれだけ優秀でも、社会に出てから意味のない同調圧力に流されてしまえば優秀ではない人間になるのは簡単です。他人に流されてスーツを選ぶのではなく、自分なりの合理的な基準で選ぶことも大切ですよね。
長年はもたない?使い捨て?上等じゃ!
さらに、次のように考えている方にもユニクロのスーツはおすすめです。
- 「スーツの見た目なんてどれも同じに見える」
- 「手入れが面倒だし、わざわざお手入れ方法を学ぶ気もない」
正直、私個人としては可能であれば良い物を長く使うことを推奨したい派です。
しかし、誰もが皆それに賛同してくれるとも思っていません。
また、中には筋金入りのユニクロLOVEな人もいるでしょう。
「とにかく何でもユニクロが好きなんじゃ!スーツも例外ではない!」という人には、もはや私から言えることは何もありません。それこそが“ブランド力”というものですから。
好きなものをとことん使うというのも、一つの幸せな価値観だと思います。
【Q&A】ユニクロスーツの疑問に答える
そして、ここまでの内容やその他をまとめて、Q&A形式にしました。
終わりに|価格を考えたらユニクロのスーツが「十分ではない」のは仕方ない
今回は以上です。
「ユニクロのスーツは安っぽい/十分ではない」という評価は、その価格を考えれば当然の結論とも言えます。
「25,000円の服」と聞くとそこまで安くない気もしますが、スーツにおいて25,000円は間違いなく安価な部類です。
それでも世の中には「ユニクロの25,000円スーツは10万円のスーツに匹敵する」と主張する方もいます。
これに対しては、次のように結論付けさせてください。
- 「ダメな10万円スーツ」になら匹敵する・・・かもしれない
- 極端な話、50万円くらいするダメなスーツにも縫製だけなら匹敵し得るが、生地やボタンの質、ブランドネームの価値までは流石に匹敵しない
- 本当に良いスーツには、どう逆立ちしても勝てない
要するに、「比較対象次第ではユニクロのスーツが高額スーツに匹敵する場合もあり得るが、本当に質の高いスーツと比べてしまえば太刀打ちできない」ということです。
もちろん、「ユニクロのスーツは3万円程度までの予算ならベストな選択肢の一つ」という価値観は今も変わっていません。
最後に、スーツ選びで最も重要なのはサイズ感だという点にも触れておきます。
スーツにとってサイズ感は何よりも大事な要素だからこそ、「街のテーラー(仕立て屋)」という専門職が存在するほどです。
もちろん、日本最高峰のリングヂャケットであってもあなたの体型にサイズが合っていなければ、それはあなたにとって良いスーツではありません。
同じように、万人向けのサイズ感で作られているユニクロのスーツも、平均的な体型ならまだしも少し体型に特徴がある方にとってはサイズ感まで微妙、ということになりがちです。
ユニクロと同等の価格帯であれば(いずれも3万円程度の予算だと生地のクオリティはユニクロに劣りますが)、カシヤマ(KASHIYAMA) や オーダースーツSADA などの選択肢もあります。
これらはいずれも都市部に多数の店舗を展開するセミオーダー系のブランドで、お店のスタッフさんが採寸してくれて生地やデザインを自由に選べる方式です。
ユニクロのカスタムオーダースーツよりも調整の自由度が高く、サイズ感も合わせやすいため、スーツ姿のあなたがより素敵に見える可能性が高いです。
実際、私も両社でそれぞれ6万円前後の予算でオーダーしたことがありますが、SADAは着心地がやや硬いものの、KASHIYAMAはユニクロのスーツよりフィット感も作りも良いと感じました。
さすがにリングヂャケットや腕利きのビスポークテーラーには敵いませんが、現実的な価格帯で「もう少し予算を出せるなら検討の価値アリ」だと思います。
コストパフォーマンスという指標は確かに重要ですが、スーツ一つとってもさまざまな方向性があり、そして価格にはそれ相応の理由があります。
ユニクロで済ますか、同価格帯でもっと自分のサイズに合ったブランドにするか、あるいは最高峰を目指してみるか。
その中でも「自分にはこれがベストだ!」と言える決断と選択ができれば幸いです。
おしまい!
(少しでもお役に立てられたなら、SNSに拡散していただけると嬉しいです!)