SHOLLWORKS(ショルワークス)は、プロの目線からファッションに関するレビュー&価値観をお届けします。

あなたはなぜ、スーツを着ているのか?歴史と変遷、その理由

あなたはなぜ、スーツを着ているのか?スーツの歴史を紐解き、現代に連なる社会的価値観を解説します。

また、スーツの将来的な可能性に関しても言及しました。

こんにちは。今日は、スーツについて「あなたが着ている理由」をお話させていただければと思います。

「なぜ、自分はスーツを着ているのだろう?」こんなこと、考えたことありませんか?

考えてみれば、とても不思議ではありませんか。皆、なんとなく「そういうものだ」と捉え、入学式や卒業式、成人式、冠婚葬祭と、スーツを着る機会を得ていきます。

 

どうして私たちは、スーツを着るのでしょう?昨今はスーツを着ない人も増えましたが、大多数のビジネスマンは未だにスーツを着ています。

「洋服だから?」「“ちゃんとしてそう”だから?」「カッコいい(とされている)から?」一応、どれも正解です。

しかし、私たちはそれ以上に、歴史に培われた社会的価値観に囚われて生きているからです。理由を紐解くに、まずはスーツの歴史からお話します。

というわけで今回は、「スーツとは」に触れた上で、別記事で改めてオススメの既成スーツをご紹介させていただければと思います。

女性目線でも「スーツが好き」という方は非常に多いですよね。少なくとも私は「スーツ姿が嫌い!」という方を見たことがありません。

また、普段はスーツを着ないという方も、人生で一度もスーツを着ないという方は稀だと思います。誰もが知っておいて損はない内容ですよ

「スーツの神話」 中野香織 著(文春新書)
created by Rinker
目次

あなたはなぜ、スーツを着ているのか?歴史と変遷、その理由

スーツの成立:貴族装いと変化

スーツは1850年代、英国で誕生したといわれています。実際には明確に定義することは難しいのですが、現代のスーツの始まりとしては、この時期からという説が有力とされています。

豪華絢爛な貴族の装いから、現在のようにシンプルな見た目になってきたのは、16世紀頃から上流階級の装いとなっていたフロック(コート)が源流。やがて、フロックは現在の正装であるモーニングコートの原型にもなりました。

さらに、そこから動きやすいように丈を短くしたのがテーラードジャケットです。テーラードジャケットの誕生と、上着とパンツが共布(ともぬの)になったことで、スーツが誕生したといえます。

時の英国王、チャールズ2世

歴史が近世に突入する17世紀頃までは、貴族の服装は豪華絢爛さが身分を表していました。当時の男性貴族は、女性よりも華やかで装飾的な装いをしていた人もいたそうです。

ところが1666年、時の英国王であるチャールズ2世「衣服改革宣言」を打ち出すと、徐々に質素でシンプルな方向へとシフトします。質素なものの象徴としてベストが誕生し、貴族階級の間で広まっていきました。衣服改革宣言の背景には、チャールズ2世が清教徒革命からの王政復古によって王位に就いたことや、戴冠して間もなくペスト(黒死病)やロンドンでの大火災により、財政的な倹約を迫られたという事情があったそうです。

いずれにせよ、英国の貴族階級は他国に先立ってシンプルな服装になっていった。これが、(他のヨーロッパ諸国に先んじて)英国がスーツを誕生させた土壌になったといわれています。

さらに、18世紀末頃になると、貴族は長丈のパンツとネクタイを身に着けるようになります。

それまで、フランスの貴族は半ズボン(キュロット)を穿いていました。しかし、(フランス革命時に大きな原動力となった)長ズボンを穿く労働者階級のサン・キュロット(=キュロットを穿かない人の意)が誕生します。

サン・キュロットたちは、半ズボンを穿いた貴族達を次々と処刑していきました。そのため、貴族側が市民に迎合するかたちで定着したようです。

フランス革命の原動力となった
サン・キュロット

貴族は労働者階級となる“平民”に迎合し、また社会の合理化に伴い、シンプルな服装を心掛けるようになります。革命の余波を受けて、英国でも半ズボン&ストッキングに代わって長ズボン&ブーツくぉ着用するようになりました。

いずれにせよ、シンプルなベスト、長ズボン、そしてフロック。これらが19世紀の英国やフランス貴族の装いとなり、やがて上着にメスが入ることで、現代のスーツが(ぼぼ)誕生します。

その様な変遷のなか、上流階級としての意識やステータスを得ようとするマインドこそスーツに潜む“背景”となり、私たちが今日、着用し続けている理由でもあります。

上着にメスが入ったのは、19世紀の前半~中頃といわれています。動きやすいように丈が短くなり、シャツや長ズボンと併せて平服化したラウンジスーツ(ラウンジでくつろげるスーツ)が誕生しました。

スモーキングジャケットもこの時代に誕生しましたが、「(くつろぎながら)タバコを吸うためのジャケット」という意味です。正装に対する、楽なウェアとしての位置付けが、ラウンジスーツやスモーキングジャケットの役割でした。

そして、(くつろぐためのアイテムだったジャケットが)動きやすいことから仕事着へと転用されるようになり、現在の仕事着としてのスーツへと繋がっていきます。

モーニングコートを着用した昭和天皇(写真右)と、
ロナルド・レーガン元米大統領(写真中央)

また、ラウンジスーツになってようやく、更なる簡素化として上下とベストが共布(ともぬの)になりました。

共布になったことで、現在のスーツがほぼ誕生した、ともいえます。

そして、共布のテーラードジャケット&パンツに加え、先述の理由で誕生したベストも加えた3ピーススーツが、現在の正式な「スーツ」になります。

(上流階級と装いを近づけることで)身分を誇示して「強さ」を示してきた

時代と共に簡略化され、仕事着(ビジネスウェア)としてのポジションを確立したスーツですが、これらの服装に共通することは、一貫して(平民に迎合したルーツを持ちつつも)上流階級の装いだったということです。

しかし、スーツが生まれた時代の前後、有史以来の服装における“封建制度”に、例外が生まれ始めました。

近代の市民革命、産業革命、そして資本主義の広まりと共に、スーツは“市民”権を得るようになり普及します。

やがて、スーツには社会階級制度からの脱却というテーマが、与えられるようになります。

これは、資本主義が社会に浸透し、中流階級からも“資本家”という存在が生まれたことが契機となりました。

日本よりも遥かに階級意識が社会に根付いている英国において、家柄とは違う、資本主義社会でのパワーである「富の力」を持った彼らが、次に目指したものが社会的権威だったからです。

長い人類の歴史において、常に服装は身分を表すツールでもありました。貴族は貴族の格好をして、平民は平民の格好をする。見た目そのものが、その人のステータスを表していました。だからこそ、経済的な力を持った資本家にとって、上流階級と装いを近づけられることは悲願でもありました。

経済的成功では手に入らない、生まれながらの「身分」というステータス。階級という社会に深く根差した障壁に対し、(ぱっと見だけでも)同一化することを目的に、ジェントルマンという概念が作り出されました。

そして、彼らの服装にスーツが選ばれたことこそ、スーツが今日、ここまで普及した理由となります。

ほどなく、スーツは「社会的信用の象徴」となりました。スーツを着ているということは、一定の社会的階層であることが保証される証でもありました。つまり、先述の「社会的階層からの脱却」とは、労働者階級の参加は拒否された、明らかなダブルスタンダードです。

狩猟の時代における保証であった肉体的な強さに代わり、スーツを着るということは、資本主義社会下における強さの象徴となりました。今の私たちにどれほどの階層意識があるのかは分かりませんが、スーツが普及した理由であることは間違いありません。

つまり、結局はまだ、有史以来の「身分を表す」という服装の使命は、本質的に変わっていないということでもあります。

日本の洋装の伝来と、スーツの普及

19世紀、世界の覇権国であった英国の価値観は世界の諸地域に波及しました。英国と比して階層意識の希薄といえる日本においても、急速な文明開化と“列強国”としての立ち振る舞いが求められた時代です。是非はさておき、それが当時の倣うべき価値観だったことは間違いないでしょう。

日本では1872年(明治5年)、明治天皇の勅諭(ちょくゆ)によって、洋服が礼装として採用されることになりました。国民全体にまで洋装が普及するのは戦後になるものの、「食肉や洋装が列強国の証である」という当時の価値観に倣ったものです。

(神道行事を除き)皇族が現在も公務でスーツを身に纏うのは、この頃の規範を現在も踏襲しているからです。

日本にも素晴らしいメーカーやテーラーがありますが、英国のサヴィルロウやイタリアのナポリような都市や地域単位のブランド化よりも、全国の国道バイパス沿いに洋服の青山紳士服のコナカなどが計画的に構えられました。

こういった国民性や普及の仕方は、一億総中流的なスーツの普及に貢献しました。「皆が廉価でそこそこの物を」という階層意識の低さもまた日本らしさの一端ともいえるのでしょう。

高度経済成長期からバブル崩壊までの日本は「最も成功した社会主義モデル」とも形容されます。これは、矛盾した「社会的階層からの脱却」に対して、最も成就させていた社会モデルだったのかもしれません。

しかし、そういった社会モデルは既に過去のものとなりました。

同時に、「スーツを着ない仕事はまともな仕事じゃない」という価値観や、ブルーカラーやホワイトカラーといった意識も薄れたことも間違いありません。

それゆえに、階級意識とセットで普及したスーツが、仕事着として選ばれなくなる時代の到来も、また必然なのでしょう。

どんなスーツを着れば良い?おすすめは?(別記事へ)

とはいえ、この記事を読まれている皆様の多くは(着ているにせよ、着させられているにせよ)仕事でスーツを着ている方が多いのではないでしょうか。

中には、「単純にスーツが興味がある」「好きでたまらない」といった方もいらっしゃるのではと思います。

着ている理由は分かったけれど、現実問題としてどんなスーツを選べば良いのかを、探されている方もいらっしゃるでしょう。

どうせ着るなら恥ずかしくない、褒められるスーツを着たい。あるいは予算も限られるので、なるべくお得に良いものを購入したいと思う方も大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

そこで、下記記事では私が着たことのある世界のスーツブランドから、オススメのスーツを紹介してみました。新社会人の方からある程度余裕のあるビジネスマンの方まで、ぜひ参考にしてみて下さい。

また、下記記事ではユニクロのスーツについても解説しました。併せて、初心者が選ぶべき服や「カスタムオーダースーツ」のサイズ感についても解説しましたので、ぜひご覧ください。

最後に:スーツの役割は、終わりを迎えるのか?

スーツを着ないことでブランディングする人も増えている

今回はスーツの歴史と変遷を語りつつ、「なぜ、あなたはスーツを着ているのか?」というテーマでお話しさせていただきました。

現に売り上げが低下している通り、スーツは今後も、仕事での重要度を低下させるでしょう。

スーツが誕生した150年前とは異なり、今はもっと機能的で合理的な服が沢山あります。また、あまりに普及し過ぎて没個性的だったり、労働者として「囚われている」というネガティブなイメージを抱いている人も多いと思います。

今や、インフルエンサーをはじめ、スーツを着ない人は多い。彼らにとってスーツは権威を示すものでも、説得力を増すものでもない。むしろ着ていたら、違和感すら感じさせるような存在です。

「スーツを着ないこと」自体が、自由な生き方を連想させる。

だからこそ、仕事着としてのスーツの役割が今後大きくなることはないと、私は思います。

「否応なしにカッコいい」という価値観に、どう向き合うか

しかし、それでもスーツはくなりません。なぜなら、スーツはカッコいいからです。普段着にはない色気や魅力、場を作る力があることは間違いありません。

人は、見た目で判断する生き物です見た目が良ければ能力は高そうに見え、受ける評価は高く、人生も総じて有利に動きます。これは、良くも悪くも事実です。「スーツが好き!カッコいい!」という人がいる限り、その需要は尽きません。

着用しているから、その歴史や階級意識も背負わねばならないというものではありません。身の引き締まる気持ちも、相手から得られる信頼感も決して侮れないものです。

たとえ仕事では着なくなろうとも、重要な局面でのスーツスタイルおよびその着こなしは、まだまだ、あなたの人生を輝かせる可能性を秘めています。

スーツ自体の着られ方が変化をしていくことすら、恐れなくて良いのだと思います。仕事で着させられる服から、勝負服に、週末のデート着に、相手を「落とす」服に。そんなスーツの未来を私は予感しています。

今私たちが生きるこの時代において、歴史としての変化も見てみたくありませんか?

「ひとはなぜ服を着るのか」 鷲田清一 著 (ちくま文庫)
created by Rinker

これからのスーツというもののポジション。それは個々人の選択の連続が決定します。

だから、あなたが明日クラシカルにスーツを着るのも良し、世の流れに身を任せてカジュアル化するのも良いでしょう。セットアップスタイルでTシャツにスニーカー。それもOKです!

あなたは、スーツという存在や歴史、今後にどう向き合いますか?

ご自身の価値観、そして環境を見つめ直した上で、選択してみてください。

SHOLL(しょる)
皆さまこんにちは。“SHOLLWORKS”運営者のSHOLL(しょる)と申します。

1987年、山梨県甲府市生まれ。国内デザイナーズブランドを経て、ファッションコングロマリットのブランドでデザイナー職を経験。

現在は東京在住、デザイナー含め様々な事業に携わっています。





シェアお願いします!
  • URLをコピーしました!
目次