リングヂャケットのスーツに使用される、生地のレビュー第一回。
今回は、リングヂャケットマイスター「253/172」とオリジナル生地「カームツイスト」の組み合わせ。
こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。今回は「リングヂャケット」のスーツを介して、スーツに使用される生地を紹介する回です。
第一回はリングヂャケットのオリジナル生地、「カームツイスト」について。
「最初にどの生地を紹介しようかな・・・」と思案していましたが、このカームツイストにしたのは理由があります。
それは、カームツイストが日本でスーツを着る方のために開発された生地だから。カームツイストは高い耐久性を確保しつつ、高温多湿な気候でも清涼に過ごせる万能生地です。
リングヂャケットは、日本人の体型から気候までを知り尽くしたブランド。本日は、プロのファッションデザイナー兼スーツマニアの私と、カームツイストの魅力を深堀りして参りましょう!
私物のリングヂャケットマイスター「253/172」は、こんな感じ
深いネイビーに見える、チャコールグレー×ネイビーストライプ
&リングヂャケットナポリのシャツ(私物)
写真のリングヂャケットマイスターのスーツは、定価は165,000円(税込)で2020年秋冬シーズンに購入したものでした。
ジャケットは「253」&パンツは「172」モデルです。チャコールグレー地×ネイビーストライプのスーツで、近くで見ると黒っぽく、遠目に見るとダークネイビーに見える独特の表情を浮かべる一着。
また、カームツイストの生地目も(後述の通り)やや特殊な構造をしています。いずれもリングヂャケットらしい意匠性が特徴です。
写真のシャツは、リングヂャケットナポリのもの。スーツが平織りで抑え目の光沢感だからこそ、シャツもブロード生地をチョイスしています。
また、ネクタイは日本では見かけないルビナッチのスフォデラート。イタリア最高峰のサルトです。ネクタイも光沢感は抑え目のものをチョイスしました。
もちろん、セッテピエゲのネクタイもよく合いますよ。
裏地は総裏。後述ではカームツイストを“高温多湿な季節でも合う生地”として紹介していますが、秋冬シーズンの商品であることからもオールシーズン対応生地です。目付も260g/㎡と重くもなく、軽くもない生地。
完全に蛇足ですが、袖を2.5cm伸ばしたので袖裏地は自前の生地に交換しています。オリジナルは身頃と袖の裏地は同生地ですが、少し耐久性が高いものにカスタムしました。
袖はウエストボタンと揃えるため、ハンドホールを開けました。我ながら綺麗に仕上がったと思います。
「253/172」は、チェストがあってウエストが細めのサイズ感
RING JACKET 公式HPより引用
また、リングヂャケット「253/172」モデルのサイズ感は、
- チェストがやや大きめ
- 逆にジャケットのウエストは細め
- パンツはワンタックのスリムストレート
といった特徴があります。
48サイズで概ねA7サイズ相当ですが、お腹が少し気になるくらいだと(パンツはちょうど良くても)ジャケットのボタンが閉めにくいかもしれません。
ジャケットの「253」は、筋肉質だけれどウエストはスッキリとしている人のためのモデル。全体的に細身の方はジャケットの「184」、あるいは普通体型の方は「269」「286」などを選ぶと良いですよ。
ウールの特徴|日本の春夏は高温多湿、毛の細いウールのスーツはすぐにダメになる
次に、カームツイストが高温多湿な気候に適している理由を解説します。
毛(ウール)そのものの特性をおさらいした上で、お話させていただければと思います。
「万能素材」ウールは、熱と湿気の摩擦によって絡み合い、傷んでいく
出典:https://www.fashionsnap.com/article/2017-10-23/wool-abc2/
毛(ウール)は、特に陸上で生活している動物にとって、体温の保持や体表面の保護のために備わっていると考えられるもの。哺乳類に限らず、鳥類の羽毛や爬虫類のウロコも基本的には相同する存在です。
毛の特性としては主に、軽量で吸湿性に優れる&熱伝導率が低い(外気の気温を身体に伝えにくいため、夏は涼しく冬は暖かい)こと。
また、毛のスケールの中に水分を含むため比較的燃えにくく、綿や麻と比べて弾力性があるため復元力も高いことも特徴。トータルで非常に優れた機能性素材です。
「毛」は英語でhair(ヘアー)もしくは、wool(ウール)。ケラチンタンパク質でできている点は同じですが、ヘアーとウールの違いは主に太さ、弾力性、スケールの多さなど。動物にもヘアーはあります。
— しょる|めちゃくちゃ詳しいファッションブロガー (@SHOLLWORKS) February 19, 2022
しかし、ウールは吸湿した状態で摩擦が起きると毛羽立ってしまう特性があります。
毛は吸湿すると、上記画像のようにスケールが開いた状態になります。これは、身体を冷やさないようスケールを開き、ため込んだ水分を蒸散させて体温を調節させるため。
この特性がウールの優れた点でもあり、欠点にもなり得ます。
あえてウール繊維を絡めて起毛させている
例えば、夏にウール生地の服を着用していることで、摩擦部分がフェルト化していきます。これは、ウールのスケールが開いた状態で摩擦が起こった場合に、スケール同士が絡み合うことが原因。
また、熱も毛素材を変形させます。融点は130℃と低くはありませんが、タンパク質が主成分であることから耐熱性は高くありません。ヘアアイロンで髪をアレンジできる原理と同じく、着用時の摩擦で変質していきます。
つまり、高温多湿な季節でのウールスーツの着用は「傷む要素が満載」ということをご理解ください。
原毛の細かなウールのベタ生地スーツは、日本の春夏に「適さない」
そして、ウール生地に関しても、日本の春夏に原毛の細い生地は適しません。上述のような特性があるため、ウールの中でも「高級」生地に使用されるような原毛の細いものは特に熱と湿気に弱いという欠点があります。
服好きになるとスーツの生地にもこだわりますよね。しかし、買う側も「光沢感」や「ブランド力」に“釣られて”繊細な生地を選んでしまいがちです。
例えば、ゼニアの「トロフェオ」や、ロロピアーナの「タスマニアン」といった生地は、イタリアの気候から誕生&高級感を追求したもの。そのため、熱や摩擦で傷みやすい生地になっています。
ローマと東京は年間の平均気温こそ同程度ですが、湿度は圧倒的な差があります。(ワンシーズンに2、3回程度しか着ないならともかく)細い原毛が使用された綾織生地を日本で着る場合、基本的に春先までにしておきましょう。
Super150’sや170’sのようなウールの一本一本が細く、しかもサージなどの綾織は耐久性よりも光沢感が重視されています。
カームツイストは「耐久性が高い」「重くない」「通気性が高い」➡高温多湿下の“答え”
「じゃあ、どうすれば良いの?」という疑問に対する答えが、カームツイストのような生地を選ぶこと。
ウールの生地には違いありませんが、「糸の特性や配列」と「織り方」によって、ちょっとやそっとの湿度や摩擦程度ではフェルト化しない、非常に耐久性の高い生地に仕上がっています。
しかも、手触りもサラッとして通気性も高い上に、英国生地のような重さもありません。日本にとても「ちょうどいい」バランスなのですね。
「カームツイスト」はリングヂャケットが日本の気候を考慮して開発した生地
二種類の太さの糸をS撚り・Z織りにして交互に配列して織られた生地
カームツイストの構造上の特徴は、異なる太さの糸をS撚り・Z織りにして交互に配列して織っている点。
原毛を撚(よ)って糸にする際、撚るねじれ方向には右巻き(S撚り)と左巻き(Z撚り)があります。通常生地の場合、右巻きor左巻きのいずれかに統一することで平滑な生地になります。
一方、撚る方向が異なる糸を交互に配列すると、隣り合わせの糸同士が逆方向にツイスト(ねじれ)しているため、干渉しあって独特のシボ感が生まれます。
出典:wikipedia
異なる方向に撚った糸を並べ、生地の表面にシボ感を生む生地は昔から存在しました。例えば、和装の世界では「ちりめん」が代表的な例として挙げられます。
シボがあった方が空気の流れる道が生まれ、肌やインナーとの接地面積が小さくなるので相対的に涼しく感じます。洋裁の世界の「クレープ織り」も、基本的には同様の特性を持った生地とお考えください。
そして、ちりめんやクレープ織りは通常、数本ごとに撚る方向を変えた糸を配列することで、表面に大きな“シボ感”を生み出していることが特徴。
出典:http://www.ringjacket.co.jp/
一方、カームツイストはシボが大きくならないよう、一本一本、交互に配列しています。
しかも、異なる太さの糸を使用することで、同じ力でツイストされることなく不規則な畝(うね)が表れません。ちりめんのような利点を確保しつつ、ビジネス用途に使える規則的な並びになっています。
そして、二種類の太さの糸をS撚り・Z織りにして交互に配列して織ったことで、
- 太番手糸使用&平織りによる、高い耐久性
- 表面の凹凸感による“シャリ感(清涼感)”
- 高い通気性&ナチュラルストレッチ
といった特徴があります。
特徴その①:太番手糸使用&平織りによる、高い耐久性
出典:https://www.ttsmile.co.jp/glossary/
まずは何といっても、実用性を考慮した高い耐久性。これは、使用されている二種類の経糸に耐久性の高い太番手のものを使用していることが理由。
しっかりした糸を使用した生地は、耐久性を飛躍的に向上させてくれます。“ちょっとやそっと”の熱や湿気では、文字通りビクともしません。
加えて、カームツイストは平織構造の生地。生地を構成する経(たて)糸と緯(よこ)糸を交互に通すことで、摩擦に強く丈夫な生地になります。綾織と比べると光沢感は控えめになりますが、その分、実用性はバツグンな生地に仕上がっています。
特徴その②:表面の凹凸感による“シャリ感(清涼感)”
ピンヘッドのような表情になっている
先述の通り、カームツイストは異なる太さの糸を使用することで、生地表面に細かな凹凸が生まれた生地。結果として、表面がベタっと張り付かずに細かな凸部分が肌に触れ、“シャリ感”を与えてくれます。
シャリ感とは生地表面に触れた際、「シャリっとするような」感触を与えてくれるテクスチャーのこと。
シャリ感があると、高温多湿な気候下においては清涼感を感じやすくなります。平滑な生地だと「ベタっと肌やインナーに纏わりつく感覚」が生まれますが、暖かくなる季節に嬉しい構造になっています。
特徴その③:高い通気性&ナチュラルストレッチ
カームツイストは通気性も高く、熱を適度に放出してくれる点も強みのひとつ。糸の太さを交互に変えた平織構造の結果、生地表面の凹凸に加えて糸と糸の間に隙間が生まれます。
また、生地に適切な隙間があると、高い通気性&快適なナチュラルストレッチ性があります。結果、ポリウレタンなどの化学繊維を使用することなく、身体の動作に合わせて動いてくれます。
英国のフレスコ生地の場合、糸そのものをハイツイスト(強撚)にする傾向にあります。しかし、ハイツイストにすると引っ張り強度は高くなりますが、生地全体が硬くなるためストレッチが効きません。
オーバーサイズのコートなら良いのですが、スーツの場合は腕や膝が曲がりにくくなってしまいます。その点、カームツイストは柔らかさと耐久性を併せ持つ、非常に貴重な生地となっています。
【余談】有名テーラーからの評価も非常に高い生地
余談ですが、かつて2009年のAERA増刊「アエラ スタイルマガジン」にて、スーツ鑑定をしてもらうという企画が行われました。
具体的には、ブランド名を隠して服作りのプロ3名に、50ものブランドスーツを評価させるというもの。
鑑定する3人とは、
- オーダークロージングを営む「スタイルクリエーションズ」滝沢滋氏
- 日本有数のテーラーである「ペコラ銀座」佐藤英明氏
- 紳士服の聖地、サヴィルロウのビスポーク職人として活躍する「ブルーシアーズ」久保田博氏
という、メンズファッション界では非常に有名な面々でした。
そして、3人の評価で1位に輝いたのがリングヂャケット。さらに(リングヂャケットは世界中の有名メーカーの生地を扱えるにも関わらず)、そのスーツに使用されていた生地が「カームツイスト」でした。
詳細:http://www.ringjacket.co.jp/mt/ringja/2009/05/27/
実際、評価の内容としても仕立てのレベルはもちろんのこと、生地のクオリティも絶賛されたそうです。
カームツイストは、自社生地ということもありかなり抑え目な価格。しかし、個人的にはマイスターラインの20万円を超えるようなスーツに使用されている、大半の生地よりもオススメできます。
その他|カームツイストの価格や対応シーズンは?
価格➔自社開発生地でリーズナブル、この価格で買える品質の生地じゃない
カームツイストを使用した商品は、オンラインストアでは毎シーズン、必ず登場するわけではありません。
ただ、ネイビーレーベルや通常レーベル、そしてマイスターレーベルでも使用される生地ですので、登場する確率は比較的高いといえます。
楽天市場や三越伊勢丹オンラインで販売されていることが多いので、ぜひチェックしてみて下さい。
ちなみに、スーツの場合、カームツイストを使用したものの定価は、
- 通常ライン:110,000円(税込)
- マイスターライン:165,000円(税込)
です(2023年調べ)。特に、リングヂャケットマイスター×カームツイスト生地のものは、登場したら絶対にオススメ。
カームツイストの秋冬使いはおかしい?➡全然おかしくない
カームツイストは春夏秋冬、オールシーズン対応できる生地です。
今回は、「高温多湿な気候下に適したウール生地」という切り口で紹介させていただきましたが、
- 見た目は軽さもなく平織り生地のため、別に秋冬でもおかしくない
- ウールは断熱性が高く、夏は涼しく冬は暖かい
からです。先述の通り、目付は260g/㎡で合物の重さとなっていることからも、秋冬にもご愛用いただけます。
終わりに|カームツイストは、リングヂャケットの良さを更に引き出す超オススメの生地
出典:http://www.ringjacket.co.jp/
今回は以上です。
カームツイストは本当に良い生地です。リングヂャケットも本当に良いスーツブランドですので、この組み合わせはもはや言うことがないレベル。
「これ1着で春夏秋冬OK」という、万能選手であることは間違いありません。耐久性が高く、ナチュラルストレッチ性で動きやすく、仕立てのレベルはいわずもがなの至れり尽くせりなスーツです。
特に、絶対的に気温と湿度が高い日本でウールのスーツを着るのであれば、「通気性」「耐久性」に加えて、「あまり重くない、手触りが清涼な生地」が理想。
カームツイストは、そういった要望に応えてくれる超オススメ生地です!
おしまい!
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