プロのファッションデザイナーがバブアーの歴史や魅力、代表的モデルをご紹介。
そして、バブアーの“見事なブランディング”から学べることも多いと思います。
こんにちは、しょる(@SHOLLWORKS)です。本日は、バブアー(Barbour)というブランドのご紹介させていただきます。
全く知らない方に向けて簡単に説明させていただくと、バブアーは綿生地にオイルを染み込ませた、オイルドクロスのアウターが有名な英国ブランド。
クラシックなトレンドが席巻している現在、バブアーもまた勢いに乗るブランドのひとつです。クラシカルで格があり、値段も高すぎないアウターをお探しの方。そして、手入れをしながら長年愛着を沸かせたい人にピッタリです。
長い歴史の中でヴィンテージマニアの心もくすぐり続ける一方、近年ではエンジニアードガーメンツやマーガレットハウエルといったブランドとのコラボレーションや、大手セレクトショップの別注品も多数展開。
ヴィンテージ好きや手入れ好きな人にも向いていて、しかも都会でも田舎でも似合います。少なくとも、ファストファッションにはない魅力を備えたブランドではないでしょうか。
というわけで、本日はバブアーというブランドのご紹介と、あなたの価値観やライフスタイルに則した選択、そしてブランディングの価値にも触れたいと思います。宜しくお願いします!
バブアーの背景、歴史、ブランドについて
Barbour 公式HPより引用
バブアーが誕生したのは英国イングランドの北東部にある、サウスシールズという地域。
このサウスシールズを含む英国東海岸から北ヨーロッパの北海を囲む地域は、中世からタラやニシン漁が盛んでした。
英国の代表的な料理であるフィッシュアンドチップスも、これらのフライ料理です。
15世紀頃になると塩漬け製法が確立され、魚の保存食が長期航海を可能にしました。大航海時代の幕開けは、まずスペインやポルトガルを、続いて英国を世界の覇権国に押し上げました。
この時代は、漁業が国力に対して大きな貢献をしていたそうです。そして、衣類もまた地域産業と深く結びついており、国力を支える漁業従事者に特化した服地が開発されました。
そして、産業革命を経た近現代。極寒の北海沿岸地域で働く漁師や港湾労働者のために防寒性・防水性を高め考案された生地が、綿生地にオイルを塗ったオイルドクロスでした。ナイロンタフタやゴアテックスが生まれる以前に考案された、歴史と地域性によって誕生した製法です。
Barbour 公式HPより引用
そんな地域でバブアーが誕生したのが1894年。ジョン=バブアーという人物が開業しました。
この頃のデザイナーやメゾンといったものは、まだ“女性のもの”でした。「紳士服」の世界ではスーツが形作られると同時に、「モード」とは別の、特定の労働環境に適した商品を提供するメーカーが誕生します。
バブアーもそんな「実用的」紳士服メーカーのひとつでした。
やがて、「ファッション」とは無縁であったバブアーの、耐久性や防水性といった機能面が広く注目されるようになります。
狩猟などのアウトドアやモータースポーツ、そして、二度の世界大戦で英国軍に採用されたことで、やがて国内外にその名が知れ渡るようになりました。
また、バブアーを語る上で欠かせないのが、ロイヤルワラントといわれる英王室御用達の認可です。この事実は、バブアーのブランドイメージを大きく向上させました。
バブアーはこの認可を与えられるチャールズ英国王はもちろんのこと、近年まで故人となったエリザベス二世や、エディンバラ公フィリップからも認可を受けていました。
エリザベス二世からは1982年、エディンバラ公からは1974年、チャールズ英国王からは1987年に認可を受け、ワラントの数でヴィンテージ品の製造年代も大別されます。
長い歴史の中で培われたマイルストーンも、ヴィンテージマニアの心をくすぐる要素です。
【ビデイル】バブアーの代表的モデルをご紹介【ビューフォート】
Barbour 公式HPより引用
魅力的な要素が詰まったバブアーですが、有名どころ&マイナーも含めて実に多様なモデルが展開されています。バブアーの場合、どちらかといえば固有のモデルよりも「バブアーであること」に重きが置かれており、あなたの好みや環境に合った商品をチョイスさせるブランドです。
とはいえ、バブアーは“ぽっと出”から超ロングセラー、コラボレーションモデルまで多種多様。まずは「どれから購入すればよいか分からない」人に向けて、代表的なモデルをピックアップさせていただきました。
BEDALE(ビデイル)
Barbour 公式HPより引用
まずは、バブアーで最も有名なビデイル(BEDALE)から。バブアーといえば、ビデイルを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。
腰丈のショート丈ジャケットで、軽量で動きやすい「短バブアー」(モデル数が多いので、丈の長さでこう呼ばれます)です。
初登場は1980年。後述のヘイドンやインターナショナルと比べれば新しいモデルですが、一般的には40年に渡って発売されてるというのは、かなりのロングセラーな部類ではないでしょうか。
ビデイルは元々、乗馬用のジャケットとして製作されました。短い着丈や背面の両側にあるサイドベンツ(スリット)は、元々は馬に跨るためのディティールです。また、袖の隠しリブによって防風性を確保。
近年はスリムなモデルであるビデイルSLやオーバーサイズビデイル、都会の満員電車でも心配のないノンオイルのビデイルまで展開しています。
コーデの幅も広く、カジュアルにカットソー1枚の上に着るも良し、通勤時にスーツの上に重ね着するも良しですね。
BEAUFORT(ビューフォート)
Barbour 公式HPより引用
続いてご紹介するビューフォートは、腰下まであるミドル丈のハンティングジャケット。ビデイルと並ぶバブアーの代表的なモデルです。
1983年に発売されたビューフォートは、一見ビデイルとよく似たモデル。しかし、着丈やディテール、ルーツは全く異なるもので、乗馬用のビデイルに対し、ビューフォートは狩猟用のジャケットに由来しています。
本来、狩猟で捕らえた獲物を入れる大容量の「ゲームポケット」が背中に配されていたり、狩りのために邪魔にならないよう、袖も捲りやすく作られている点が特徴。
都市部でも地方でも、スーツのアウター感を出したければ非常にオススメです。スーツの上から着てもサマになりますし、ジャケットの上に着ても袖が通しやすい点が◎。
ブランドは、纏った人の理想とする生活イメージをサポートしてくれるツール。バブアーは機能的なリアルさと、都会では手に入らない自然的な生活のイメージを与えてくれます。
HAYDON JACKET(ヘイドンジャケット)
Barbour 公式HPより引用
3番目に紹介するのは、ヘイドンジャケット。ボタンの幅が狭くクラシックな雰囲気の、いわゆる「長バブアー」の一着。
超が付くほどの有名モデルではないかもしれませんが、2018年にリバイバルを果たしたダブルブレステッドのAラインコートです。
ヘイドンジャケットは(ビデイルやビューフォート同様)軽量な6オンスのエジプト綿を使用。超長綿のしなやかな高級感とオイルが合わさることで存在感を発揮しています。
Barbour 公式HPより引用
ヘイドンは、なんと最初の発売が1911年頃(日本は明治時代でした)。長らくラインナップからは外れていたのですが、80年以上に渡って保管されていた個人所有の一着が、バブアー社に寄贈されたことを切欠に再販が実現。
こういった秘話が物語るのは、歴史あるメーカーの蓄積は決してブランドだけのものではなくなるということ。このようなストーリー性もまた、歴史ある有名メーカーにのみ許された特権ではないでしょうか。
Barbour 公式HPより引用
また、同じく復刻品である、トレンチコートのウィットレイも要注目。丈の長さも長すぎず、万人に合わせやすいですね。
ウエストベルトやラペルの返り部分までコーデュロイ素材になっており防寒性の高さもGOODな一着。
INTERNATIONAL(インターナショナル)
Barbour 公式HPより引用
最後にインターナショナル。元々は軍用として作られたジャケットをルーツに、1936年に登場したライダースジャケットです。
インターナショナルは、モーターサイクルスポーツと共にありました。1920年代頃から先進国の都市部に自動車やバイクが普及し始めましたが、同時に(上流階級のスポーツとして)モータースポーツが確立しました。
インターナショナルは、ライダースジャケットとしてレースの分野で多くのプレイヤーに愛用され、アメリカの60年代のトップ俳優、スティーブ・マックイーンが愛用したことでも知られます。
オイルドクロスの臭いは大丈夫??手入れは面倒??
オイルの臭い問題は、概ねクリアされている
バブアーの大半の商品には、ワックスを塗布した綿生地である「オイルドクロス」が使用されています。最近はノンワックスのモデルも展開されていますが、「バブアーといえばオイルドクロス!」という人もいれば「オイルを使用して大丈夫なの?ベタついたり臭いがしないか気になる・・・」という方もいらっしゃいます。
結論から申し上げると、今現在バブアーで使用されているオイルの臭いはほぼありません。余程過敏な嗅覚をお持ちの方でない限り、100人中90人は気にならない程度だと思います。
オイルの成分の詳細は企業秘密だそうですが、高抗酸化のものが使用されており、人体への影響も極めて少ないオイルだそうです。オイルドクロスの手触りに関しても、かなりサラサラとしていて滑らか。ベタベタした感じはありません。
オイルに関しては、ヴィンテージよりも現行のものが良いと思います。時代と共に改良が重ねられており、近年までは強烈な臭いでした(尤も、その臭いが良いという方もいらっしゃいますが・・・)。
私自身、父がバブアーのコートを愛用していたのを臭いで記憶しています。生まれてから数年間をバンクーバーで過ごしていたのですが、英国同様に雨量の多い地域で未だにオイル缶の臭いの記憶があります。1990年ごろの話ですので、そのころのオイルはまだ臭いが強かったようですね。
いずれにせよ、現在は臭いに関して、概ねクリアになっていると思います。「昔はこうだった」と言えるストーリー性もまた、長年続くブランドの特権であり、魅力の一部ではないでしょうか。
(余談ですが)バブアーが誕生した19世紀末期当時、オイルドクロスには魚の肝油が使用されていたそうです。
魚の油は空気に触れると酸化してしまい、時間が経過すると強烈な臭いを発していたそう。暴風雨吹き荒れる寒冷地ならいざ知らず、温暖な都市部でそんな臭いがしたら耐えられないかもしれません。
都会にオイルドクロスは向かない?ずぼらな人には向かない?
オイルドクロスに使用されているオイルの臭いは解決されていても、若干、向いていない場面があることは否めません。すし詰めの満員電車に乗ったり、会社のコート掛けが共用の場合は憚れますよね。実際には、生地に染み込んでいれば易々と付着しませんが、それでも気は使ってしまうのではないでしょうか。
また、オイルドクロスの商品自体、ずぼらな人には向きません。普通のクリーニングでは対応していないため、定期的なブラッシングと固く絞った布でのメンテナンスが必要になりますし、油も少しずつ抜けていきますので入れ直すリプルーフも、数年に一度は必要になります。
それらを加味した上で愛着が沸くか否か。間違っても「廉価で購入して、トレンドが去ったら捨てる」人向けではありません。ご自身の性格や環境を考慮した上での判断が、オイルドクロスと向き合う第一歩になります。その手間が愛おしく感じ、定番品を長年愛着を持って着たいという人のためのブランドです。
オイルドクロスが面倒!という人には、ノンワックスのモデルもあり
バブアーというブランドには魅力を感じるけれど「オイルの手入れは面倒・・・」「自分の環境には合わないかなぁ・・・」という方には、ノンワックス(ノンオイル)のバブアーをオススメします。
「え、それって最早バブアーじゃなくても良いのでは・・・」と、思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、バブアーというブランドの多様なニーズに応える歩みですし、変化し続けている結果こそブランド運営の宿命といえます。
正直、個人的にはオイルドクロスのバブアーの方が、魅力的には映ります。ただ、ノンワックスのバブアーも、先述の上質なエジプト綿やコーデュラといった上質な素材で製作されています。見た目が気に入っているのであれば、ノンワックスのバブアーに手を出すことも、決して悪手ではないと思います。
終わりに|ファッションの「不便益」と使用環境、独自性を考える
今回は、バブアーについてご紹介させていただきました。実際、機能的な部分だけを切り取るのならば、バブアーのオイルドクロスは、総合的にはゴアテックスには敵わないと思います。
しかし、個人的にはバブアーから「不便益」を学びました。オイルドクロスの手入れからは素材の知識を、背景にある歴史からブランドの意味を学びました。手間が知識を与えてくれましたし、愛用している内に自然と愛着も湧いてくる。
ただ気軽に買って捨てるだけでは味わえない経験と、大切にするマインドを学びました。
また、バブアーは本国や日本直営店に持ち込むと、修理も対応してくれます。なんでも数十年分の生地がストックされているそうで、顧客に長く着てもらえるサービスも充実しています。
新しさや思想を追求・表現するデザイナーズブランドも良いけど、こんな歴史と伝統に育まれたブランドも素敵だと思いませんか。
ファッションの多くは「都会へのあこがれ」を産業にしてきました。ファッション業界の人間に、地方出身者が非常に多いことを感じているのは私だけではない筈ですし、かくいう私もその一人です。
現状、日本は東京以外、都市としてファションを確立させている地域はないと言って良いと思います。大阪も名古屋もその他の都市も、東京に追随してきた結果です。
これからの地方がブランディングとして目指すべきは「東京ではない」独自性です。そして、田舎から発現したバブアーは都市部はもちろん、田舎の風景にも良く似合う。都会へのあこがれを目指さない生き方、独自性を確立する生き方もあって良いですし、あえての地方在住をもって自己実現する人も出現しています。
日本は、世界中どの地域でも着られるユニクロを生みました。
素晴らしいことですが、ヒストリーや圧倒的な格に裏打ちされた、エルメスは生めません。それ以上に、バブアーのように地域の独自性とブランディングを両立させたものを(少なくとも今までは)生めなかったことを、とても残念に思えます。
ブランドを纏うのか、歴史性を纏うのか。それとも、それらを一切捨ててコスパや機能を追求した合理性を纏うのか。絶対的な正解・不正解はなくとも、何が私たち自身に、この国の将来にとって良い選択になるのか。
一度立ち止まって考えて、そして選んでいただけたら幸いです。
おしまい!
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